1)概要
津波は地震に起因して発生する災害です。そのため、津波による被害が予想されている地域は、過去にも津波によって大きな被害を受けたことがあることが多く、またこの先も繰り返し津波によって被害を受けることが予想されます。そのような津波常襲地域においては、津波に備える文化を地域に醸成することにより、未来永劫、津波に対して安全・安心な地域づくりをすすめることが必要といえます。
そこで、本研究室では、岩手県釜石市を対象に、津波による犠牲者ゼロを目的とした津波に備えた災害文化の醸成を目指した研究活動を行っています。本研究活動では、災害文化が世代を超えて継承されていくことに着目し、子どものとの保護者の双方を対象とした様々な取り組みを実施しています。
そこで、本研究室では、岩手県釜石市を対象に、津波による犠牲者ゼロを目的とした津波に備えた災害文化の醸成を目指した研究活動を行っています。本研究活動では、災害文化が世代を超えて継承されていくことに着目し、子どものとの保護者の双方を対象とした様々な取り組みを実施しています。
2)子どもとその保護者の津波災害に対する意識・知識の把握
はじめに子どもとその保護者の津波災害に対する意識・知識を把握することを目的として、釜石市内の全小中学生とその保護者を対象にアンケート調査を実施しました。その結果から明らかになったことは、以下の通りです。
a) 若い世代の津波に対する危機意識の希薄化
b) 親から子への津波に関する伝承機会が減少し、世帯内で津波避難に関する取り決めや相談ができていない
c) そのため、子どもが津波避難に関する具体的な知識をもっていない
過去の津波に関する話や津波からの避難に関する知識といった津波常襲地域に居住するためには、必要と思われる知識が親世代から子世代へ伝承される機会が減少している傾向が見て取れました。
【査読論文】津波常襲地域における災害文化の世代間伝承の実態とその再生への提案 (2020-12-28 ・ 461KB) |
3)児童とその保護者を対象とした津波防災教育の実践
アンケート調査結果を踏まえて、児童とその保護者を対象とした津波防災教育を実施しました。この津波防災教育の実施目的は、児童に津波や津波からの避難に関する正しい知識を持ってもらうことと、各世帯で津波に関する話し合う機会を増加させることです。具体的には以下のような内容で実施しました。
児童・保護者への防災教育の実施
まず児童とその保護者それぞれを対象に防災教育を実施しました。ここで児童と保護者のそれぞれに対して実施した理由としては、子どもと大人とでは教える内容や伝え方が異なるものと考えたからです。具体的には、児童に対しては、アンケート調査結果を踏まえて多くの児童が誤解していたり、知らなかった内容(過去の津波被害の概要、津波から避難方法など)を、保護者に対しては、児童の津波に対する知識や意識の実態を紹介するとともに世帯内で津波に関する話し合いの機会を持つことの重要性を指摘しました。また、児童への防災教育には、釜石市動く津波ハザードマップを活用し、津波が遡上してくる様子や繰り返し波が襲ってくる様子を教えました。
親子が一緒に通学路の津波避難場所を点検
児童・保護者、それぞれに対して防災教育をおこなった後、児童とその保護者が一緒に帰宅しながら、通学途中に大きな地震が発生した場合の津波避難場所の点検を行い、その結果を各児童に地図に記入してもらいました。
参考文献
4)防災教育実施効果の確認
参考文献
児童とその保護者を対象とした防災教育を実施した直後の平成18年11月15日に、釜石市沿岸部に津波注意報と避難勧告が発表されました(結果として大きな津波の襲来はありませんでした)。そこで、この津波騒動時に防災教育を行った児童とその保護者が何を想い、どのような行動をとったのかを把握するアンケート調査を実施しました。 その結果、防災教育を実施しなかった小学校の児童と比較すると、防災教育を実施した小学校の児童の方が情報を聞いたあとに津波の襲来を想起し、避難しなければならないと思った割合が高くなっており、防災教育を実施したことの効果を確認することができました。しかし、フリーアンサーをよく見てみると、児童が「避難しよう」と家族に呼びかけたにもかかわらず、その家族に「避難する必要はない」と言われてしまっていたケースが多く見られました。今後も継続して児童だけでなく、その保護者に対する津波防災意識の啓発を行っていく必要があることを改めて実感しました。 |